キーワード『ゴッゴル』でGoogleでの順位を競う第 1 回 SEO コンテストというのが開催されているというので、遅ればせながらボクも参加してみることにしました。仕事でもSEOは関わってくることです。
キーワードを連呼したり、いろんなところにトラックバックしたりするのは見え見えなので、特に何もせずにいようと思います。
ゴッゴルが訪ねてきたのは強風が吹き荒れるある秋の午後のことだった。その日は近づく台風のために鉄道が軒並み運休となり、それで会社を休んで窓の外とは桁違いの静かな午後を過ごしていたのだった。ゴッゴルが玄関のドアをノックしたとき、ボクはちょうど読みかけの文庫本を置いてマグカップからコーヒーを飲んでいるところだった。
こんな強風の中、いったい誰がわざわざ訪ねてくるのだろう、とボクは思った。窓の外を見るといつの間にか強風には雨が混じっていた。それならなおさら、とボクはもう一度思った。ドアのノックは短い間を置いて繰り返されていたが、訪問者が何を言っているのかはドア越しには聞き取れなかった。
「ゴッゴルですが」と訪問者は名乗った。ドアは風圧でいつもよりも開けにくかったし、開いたドアから見える外の光景の中では木々が強風に揺れていたりビニール袋や木の板なんかが宙を舞っていた。雨粒が顔にかかるのが感じられた。早くドアを閉めてしまいたいのに、訪問者はそう名乗っただけでボクの顔をにこにこしながら見つめるだけで、一向に用件を告げようとはしないのだ。
ゴッゴルですが、とボクは頭の中で繰り返してみた。「ゴッゴル…さん」と口に出して言ってみた。
「ゴッゴルですが」と訪問者は繰り返し言った。ゴッゴルと名乗る男の肩越しに吹き荒れる木々が見えたが、呼応するかのようにボクの頭の中でも思考が渦巻きはじめていた。ゴッゴルという知り合いは少なくとも今思い出せる限りボクにはいないし、また企業やなんらかのサービスなどゴッゴルと名乗って活動している組織にも心当たりがなかった。そもそもゴッゴルという言葉を耳にしたこと自体これがはじめてのことだったのだから。
ゴッゴルと名乗る男はそれ以上の説明を行うつもりはどうやらないようで、ボクも極力当惑を表情に出さないように努めていたから、あるいはボクの頭の中に渦巻く思考(「ゴッゴル? ゴッゴル?」)なんて彼にはまったく想像もできないのかもしれない。それで、とにかく「どういうご用件でしょう」と訊ねてみた。玄関のドアを開けたまま、不意の訪問者の正体にあれこれ考えを巡らすにはうってつけの天候かもしれなかったけど(少なくとも、いつもとは違う光景を目にすることができる)、でもボクはひっそりとした午後を望んでいたし、なにより読みかけの小説の続きが気になっていたのだ。
ゴッゴルと名乗る男は『あらかじめすべて話が通じているはずなのだが、あれ? どうしたことなのだろう』という疑問の念を眉間の皺にあらわしかけたが、すぐに「お聞きになっていなかったですか」と言って表情を戻した。「yosshiさんが在宅だと聞いてきたのですがね」
奇妙だな、とボクは思った。というのも、ゴッゴルと名乗るこの男はボクの名前を知っているのだ。ボクはマンションの郵便受けにも玄関にも名前を掲げてはいないし電話帳にも載せていない。このマンションのこの階のこの部屋に住んでいる者がこの名前だということを知っている者は、ボクの方から連絡先を知らせた人たちを除けば、国や公共サービスに関わるもの、銀行やクレジットカード会社、いつも同じ人に思えてならない宅配便の配達員、個人情報を要求してきたいくつかのネットサービス、それくらいしか思いつかない。あるいは、とそのときすぐに思い直したのだが、ボクがネットのどこかで登録した個人情報なんてものはその他大勢の個人情報と束にされてとっくの昔にたらい回しにされているのかもしれない。
考えるだけ無駄だ、とボクは思った。ゴッゴルと名乗るこの男がなぜボクの名前を知っているのかということをいくら考えたとしても、そもそもボクはゴッゴルという語そのものにまったく心当たりがないのだ。すっかりスタート地点に戻ったボクは少し鼻で笑った。
その間もゴッゴルと名乗る男は自分の方から何かを説明しようという気にはならないようだ。ボクが彼から得た情報といえば、彼の名前あるいは彼の所属する組織か何かの名前がゴッゴルだということ(いや、より正確に言えば、『彼がゴッゴルと名乗った』ということをボクは知っているに過ぎない)、そしてゴッゴルと名乗るその男はボクがこの時間に家にいるということを誰かに聞いてきた、という2点しかない。
そのような目まぐるしい思考が引いてしまうと、あとには奇妙な空白だけが残った。ゴッゴルについて思いを巡らすことでボクはその空白を無意識のうちに埋めていたのだった。空白にはボクとゴッゴルと名乗る男が含まれていて、やがてボクは男を部屋に招き入れた……空白ごと。
リビングに男を通してから台所でお茶を入れた。やかんで湯を沸かす間にボクは再びゴッゴルについて思いを巡らそうとしたのだが不思議なことに当の本人を前にしていないとゴッゴルについて思いを巡らすことができないのだった。そもそもゴッゴルという言葉をこれまでボクは知らなかったのだし、その言葉を知ることができた今でもそれはただ唯一あの男の存在と結びついているだけだった。
お茶を持ってリビングに戻ると窓際に立ってガラス越しに雨を見ていた男は振り向かずに「やみそうにないですなあ」とガラス窓に向かって言った。テーブルにお茶を置きながら「それで、今日はどういうご用件で……」と言うと、男もテーブルに向かって腰を下ろして「Iさんのご依頼で……」と紙袋からカバンのようなものを取り出して言った。「これを」と言いながら差し出したそれを「これは何ですか?」と聞きながら受け取ると、ゴッゴルは「トートバッグです」と微笑み返してきた。トートバッグ?
それは何の変哲もないふつうのトートバッグだった。ベージュの生地で何のロゴマークも絵柄も入っていない、いたってシンプルなトートバッグだった。「Iさんという方には心当たりがないのですが……」と言うと、ゴッゴルは「ええ、それは問題ではありません」と答えた。「問題ではない?」と口に出して繰り返すとゴッゴルは「ええ、そうです。yosshiさんがIさんをご存じかご存じないかには関係なく、私はこうしてトートバッグを届ける仕事をしております。突然見ず知らずの人からトートバッグを送られて驚かれるのも無理はないと思いますが、これまでも何度となく同じことをしてきましたし、同じような反応をなさる方をこの目で見てきました」
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