引っ越し前半戦(ベランダに身を乗り出す人たち)

 いつの間にか8月になっていました。東京は今日は暑かったです。昨日はそうでもなかったし、その前の日は寒いくらいだった。
 先週末、金曜の夜に会社を出てそのまま新幹線に飛び乗って大阪に帰りました。次の日の引っ越しに備えて終わらぬ荷造りをする予定が、ボクも妻も疲れていたのかその日はそのまま寝てしまった。土曜の朝から荷造りを開始し、昼過ぎに引っ越し屋が来てからも段ボールに荷物を詰め込み続け、1時間くらいかかって家中の荷物が運び出されるのを見ていました。先月のボクの引っ越しとは違い今回の引っ越しでは家中のものをすべて運び出さないといけないのでスケールが桁違いなのです。冷蔵庫に洗濯機、そういえば午前中にはずされたエアコン(エアコンをはずすだけの『はずし屋』が午前中に来たのだった)、ベランダに置きっぱなしになっていた自転車、そして家の中で一番大きな存在だったソファを運び出すのにはだいぶ手間取っていました。たしかにそのソファを買ったときも運び込んでくれた人は手間取っていて、エレベーターに乗らなかったので階段を使って5階まで運んでもらったのだけど、持ってくるときにエレベーターに乗らなかったものが持ち出すときに乗るわけもなく(サイズが縮むわけもない)ソファは厳重にカバーを掛けられて家から運び出されました。実際に階段を下りていくところを見てはいないのだけど、あれだけカバーがかけられるということはそういうことなのでしょう。
 家の荷物がすっかり運び出されてしまうとそこに残ったのはボクたちと埃くらいのものでした。掃除は次の日の朝にすることにしていたので(そして不動産屋の立ち会いが昼過ぎの予定だった)とりあえず空っぽの家をあとにしました。

 5年間住んだ部屋でしたが、不思議なことがひとつだけありました。それは隣人のことなのですが、とにかくよく出くわすのです。マンションの他の住人と出くわす頻度と比べて異常に頻繁に出くわすのが不思議でなりませんでした。たとえば家を出ようと玄関のドアを開けた同じタイミングで隣人も出てくるということがもう何度あったことでしょう。そのたびにボクたちは『監視されているんじゃないか』とか『盗聴器が仕掛けられているに違いない』とかいって遊んでいたのですが、答えを得られぬままその不思議さも消えることはありませんでした。『監視されている』という証拠もないし、『盗聴器』も結局は見つけることが出来ませんでしたから(あったとしてです)。
 5年間住んだ部屋の最終日にそのような形で自分の中に納得の二文字が訪れるとは思いませんでした。引っ越し屋さんに荷物を運び出してもらっている間、台所で妻と立ち話をしていたのです。彼女はちょうどベランダに背を向けるような格好で立っていて、それに向かい合うボクは必然的にベランダが丸ごと視界におさまっていました。妻と喋りながらふと視界の端に動くものを感じそちらの方を向くと、隣室のベランダとの区切りの塀(非常時には破れるようになっているアレです)越しに身を乗り出してこちらの部屋をのぞき込む隣人の姿が! おそらくボクに見られたことに気付きすぐに身を隠したのですが、ボクは小声で妻をベランダから遠ざかるように呼び寄せ自分が見たものを伝えました。
 もしかしたらそれが初めてではなかったのかもしれません。そのようにして部屋をのぞき込むか、そこまでしなくても聞き耳を立てるようなことはしていたかもしれません。じゃないとあんなに何度も同じタイミングで部屋を出るなんてことは起きないでしょう。となると次に何故隣人はそんなことをしていたのかということになります。こればかりはボクにはわかりません。暇だったからなのか、何か話しかけるきっかけを作りたかったのか。とにかくわからないのでこれらは憶測に過ぎません。何度も同じタイミングで外に出ようとしたのは偶然だったのかもしれないし、隣人ということでそこに何かしらのシンクロニシティでも作用していたのかも知れません。ただひとつわかっていることは、隣人がベランダの外に身を乗り出してこちらの部屋をのぞき込んでいたという事実だけです。

 荷物に続くようにして家をあとにし、妻の妹の家に向かいました。途中で引っ越し屋のトラックを追い抜き、ボクは途中で車を降りて一足先に新居の方へ電車で向かいました。ガスとネット回線の工事に立ち会わなければならなかったからです。引っ越し屋と妻は妹の家で荷物の運び出しがあったのです。
 駅を出て新居に向かう途中で急に大粒の雨が降り出してきました。初っぱなから大粒だったので誰かに水をかけられたんじゃないかとまず思ったほどです。家についてしばらくしてから大阪ガスの人が来てガス管をあけたりいろいろとしてくれました。と同時に、フレッツ光プレミアムの工事の人もやってきて家の中に光ファイバーを引き込んで接続テストなんかをしてました。ボクは両方を見なければならなかったので、特にガスの人から家のガス器具の使い方の説明を受けている間にちょうど光ファイバーの方の接続テストをしていたのでどのくらいの速度が出ているのか気になって仕方ありませんでした。一戸建てだと光ファイバーが直接来るのかと感心したり、実物の光ファイバーを初めて見てこんな細いのかと思ったりしました。ガスの人はお湯が出ないコンロに火が付かないと最初は手間取っていたのだけど、最終的には得意げになってボクに『壁のスイッチをオンにしないとお湯が出ません』とか『コンロとオーブンの元栓は一緒で下にあります』とか『お風呂にもスイッチがあるのでお湯が出せます』とか言ってました。ただガス管をあけに来るだけじゃないのですね。ネットの方は特に手間取ることもなく、NTTの人が帰った後でさっそく MacBook を直接繋げてみたら85Mbpsくらい出てました。無線LAN の設定をしているうちに(終わる前に)妻と妹が到着して、そのあとすぐに引っ越し屋がやってきました。
 新しい家の前は細い一方通行なので引っ越しのトラックが停まると車が通れなくなります。トラックを停める場所でしばらくあれこれしていましたが、ようやく決まると荷物の運び込みがはじまりました。みるみるうちに部屋は段ボールの箱で埋まっていきました。冷蔵庫と洗濯機は2階に置くのに階段を使って運び込めたけどソファはやっぱりだめで、2階のベランダからつり上げて部屋に入れてもらいました。なかなか良いものを見ることが出来たと思います。ベランダの手すりに登っていたけど、1日に2回もまったく異なる理由で身を乗り出す人を見ることが出来るとはね。

 荷物の運び込みが終わって引っ越し屋が帰って行くと、ボクたちはすぐさま梅田に移動しました。阪急百貨店に結婚指輪を取りに行ったのですが閉店時間が迫っていたからです。無事受け取ることができ、朝から汗をかきっぱなしだった3人はビールを飲もうとパブみたいな店に行ったのですが一軒目は予約で満席だと言われ(どうもサッカーの試合があったかららしい)二軒目でビールをたっぷり飲みました。次の日の日曜日にそれぞれの家の掃除をして即日で明け渡さないといけなかったので(新しい方の)家に帰ってそうそうに眠りました。

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