ある忠告の話

 ボクがまだ若く、いまより自分に甘かったころ、ある人がボクに忠告を与えてくれたことがある。そのことについてボクはことあるごとに考えをめぐらせてきた、ということはないのだけど、あの忠告がボクに与えた影響はボクも含めて誰もが思っている以上に大きいのではないかと思う。
 自らの行動を正当化するために理由を与え、あたかもその理由を動機としてそのような行動をとっているというフリをするという自己欺瞞。苦しみを味わう前に簡単に諦める際に自らに与える『自分には向いていない』という言葉の裏に見え隠れする自意識過剰さ。彼はそれらが如何に滑稽であるか、それらを兼ね備えた人間が如何にアホであるかを語り、そのような人間になるなと忠告を与えてくれたのだった。もしかすると本人は覚えていないかもしれない。その頃のボクたちは顔を合わせるたびに酒を飲み終わりのない話をしていた。でもあの頃の経験は今でもボクの行動指針の基礎となっていることは間違いない。
 そういうわけなのでボクは自分のことを理解できていない人のことを稚拙だと考えてしまうところがあります。

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